マンションの大規模修繕工事の費用・期間、注意点をしっかり把握

マンションの大規模修繕工事

大規模修繕工事は準備期間や工事期間も長く、費用も大きなものになります。

また、施工業者やコンサルタントの選択を誤ると、工事に不具合が生じ、ときにはマンションの寿命を短くしてしまうことすら考えられます。

費用や期間、注意点など、今回は大規模修繕工事の全体像を把握するためのポイントを挙げて説明していきます。


1.大規模修繕工事にかかる費用と期間は?

大規模修繕工事にかかる費用は、1回目は一戸あたりおよそ100万円と言われています。2回目はやや増えて120万円前後が目安とされます。

東京都都市整備局が2013年に発表した、都内の全ての分譲マンションおよび賃貸マンションを対象とする「マンション実態調査結果」(調査時点は2011年8月1日)を見ても近い数字が示されています。

資料によれば、一戸あたりで最も割合が高い金額ゾーンは60万円以上~90万円未満、続いて90万円以上~120万円未満となっています。総じて、一戸あたり60~120万円が多いということになるでしょう。

国土交通省のガイドラインでは、大規模修繕工事は12年に一度行うのが望ましいとされています。そして計画が立ち上がってから着工までの期間は通常1~1年半、着工から工事完了までの期間は50戸以下のマンションで2~3ヶ月、それ以上のマンションで5~8ヶ月が目安となっています。


2.大規模修繕工事をやる理由。何がどう変わる?

大規模修繕工事はなぜ必要なのでしょうか?

答えは「マンションの寿命を延ばすため」です。

そもそも大規模修繕工事とは、マンションの経年劣化などに合わせて実施するまとまった修繕工事のことです。分譲マンションでは住民が毎月支払う修繕積立費を使い、管理組合が主体となって大規模修繕工事を実施します。

鉄筋コンクリートを用いた建造物の寿命は、科学的な研究・検証によれば100年以上と言われています。日本で最も古いマンションが建てられてからまだ60年余りしか経っていませんが、近年に建てられたマンションほどその本来の寿命は長くなってきています。

しかし、実際にマンションを100年以上維持するためには計画的なメンテナンスが欠かせません。特にマンションの外壁などにヒビが入ると雨水が浸透し、中の鉄筋が腐食して脆くなっていきます。

マンションではこれが最も大きな問題です。大規模修繕工事はこうした現象に対して適切な修繕や改修を施し、マンションの品質を保って、寿命を全うするための工事と言えます。


3.大規模修繕工事の進め方の方式は3種類

大規模修繕工事では、マンションの管理組合が工事に向けた委員会などを発足させて進めていきます。その方式は主に次の3種類に分けられます。

3-1.責任施工方式

劣化診断や改修設計といったプランニングから実際の施工、監理までの全工程をマンションの管理会社に一括して任せる方式です。管理会社に「お任せ」してしまうやり方なので、委員会の負担は少なくてすみます。

従来、多かった方式ですが、基本的に工事の内容や価格についての第三者によるチェックがないのがデメリットとされます。

3-2.設計監理方式

設計(仕様書作成)と工事監理を外部のコンサルタント、コンサルティング会社、設計事務所などに委託し、工事はまた別の施工業者に依頼する方式です。

コンサルタントが中立的立場から、補修が必要な箇所の特定や工事方針を決めていきます。コンサルティング会社や施工業者は入札方式などで公募して選びます。最近、主流となっている方式で、デメリットはコンサルディング費用がかかることです。

3-3.CM方式

アメリカでポピュラーな方式です。外部のコンストラクションマネージャーが発注者の補助者・代行者となり、工事の手配をサポートします。

設計管理方式と違い、塗装業者、防水業者など工事内容によって全て個別に相見積もりをとり、コストダウンを図ります。日本でも徐々に普及してきているやり方です。


4.騙されることもある、コンサルや工事会社の選び方

管理会社に一括して任せる責任施工方式では、管理会社がすすめる施工業者数社から見積もりをもらって業者を決定するやり方が一般的です。

100%信頼でき、公正で客観的な視点を持つ管理会社であれば問題ありませんが、現実にはそうとばかりも言い切れません。

問題は、長年関係性を築いている会社間では談合が生じやすく、最初から選定業者が決まっていたり、リベート(バックマージン)が発生していたり、一部の住民の利益が優先されていたり等のケースが見受けられることです。

仮に修繕積立金から不必要な金額が使われている、あるいは修繕工事に手抜きが生じるといったことがあれば、大規模修繕工事をする意味が土台から揺らいでしまいます。

現在主流の設計監理方式は、このような問題に対処するための方式と言えます。しかし、公正さや客観性の確保は、コンサルの信頼性にかかっていることに変わりはありません。

設計監理方式でも、談合やリベートが発生していないかをチェックする仕組みを作り、透明性ある作業の進め方を実践するコンサルやコンサル会社を選ぶ必要があります。


5.工事中、工事後のトラブル

工事の際は、事前にどんなトラブルが起こりやすいのかを把握して対策を立てなければなりません。特に注意したいのは次の2点です。

5-1.住民のトラブルは事前の情報共有を徹底

工事中は住民から、騒音、振動、臭いなどに関する苦情が寄せられる可能性があります。これに対しては、住民への事前周知を徹底させるのが最も有効です。工事が始まる前には必ず工事業者を招いて説明会を開き、住民への概要の説明、注意事項の伝達、質疑応答を行ってください。

工事の工程表や詳細な作業内容に関する情報は、エントランスなどの貼り紙やドアポストへのチラシ投函で共有します。最近はメールやWeb上の掲示板、グループチャットを利用して連絡・情報交換を行うケースも増えています。

また、お知らせは具体的でわかりやすいものにします。「外壁塗装作業のためバルコニーに作業員が入るので、観葉植物などを撤去し、カーテン等による目隠しをお願いします」「この時間はベランダに洗濯物を干さないようお願いします」といった書き方を心がけましょう。

5-2.工事後のトラブルは保険で備える

工事後は「瑕疵による不具合」が見つかることがあります。塗装の膨れや剥がれ、外壁タイルの剥落、雨漏り、塗料汚れなどがそれに当たります。

このような場合、マンション側は施工業者に追加料金なしで工事のやり直しを求めることができます。しかし、不具合が広範囲に及ぶとやり直し費用が高額になるため、業者との間で工事の内容に関して話がこじれる可能性もゼロではありません。最悪、不具合に気づいたときには業者がすでに倒産していたというケースも考えられます。

こうしたリスクヘッジに役立つのが「大規模修繕工事瑕疵保険」です。完工後、検査員が現場検査を行い、瑕疵による不具合が発見されれば保険金が支払われます。それを再工事費用に充当できるわけです。加入するのは工事業者なので、利用したい場合は入札などの際、業者に保険加入をリクエストしましょう。


【6】修繕箇所は1回目、2回目、3回目で異なる

築12年目を目安とした1回目の大規模修繕工事では、外壁と屋上、バルコニー、接合部シーリングなど建物の外側部分をメインに補修をします。特にコンクリート内部の鉄筋の腐食を防ぐため、防水工事は重点的に行います。

24年目の2回目工事は、1回目の内容に加えて、給排水管、貯水槽、ガス配管の交換、エレベーターの取り替えなど設備交換を行うことが多くなります。

そして36年目の3回目工事では、手すり、玄関ドア、窓ガラス・サッシ、オートロック操作盤の交換や更新などの新しい工事が加わります。これらの違いを把握しておきましょう。

費用は通常、1回目よりも2回目の方がやや高額になり、3回目はさらに高くなります。


7.大規模修繕費用が足りない場合はどうなる?

大規模修繕のための修繕積立金は、新築分譲時には買い手がつきやすくなるようわざと低めに設定されていることがあります。その場合は、数年おきに積立金を値上げしていかなければなりません。

ところが、積立金の値上げ実施には住民の合意が必要です。そのため中には金額が据え置きされたまま年数が経ち、大規模修繕のための資金が足りなくなるマンションも出てきます。

このような場合は、工事前などのタイミングで毎月の積立金とは別に一時金を集めることになります。しかし、この方式で全ての住民から遅滞なく一時金を集めるのはほぼ不可能です。

突然、修繕のためのまとまったお金を徴収すると言われても、納得できないという感情が働くのは致し方ないところでしょう。一時金の額は30万円程度から、ときには100万円以上になることもあります。

こうなると、工事に必要な資金はひとまず銀行から借りて、その後、積立金を値上げして返していくという形になります。

もしくは工事が行えないまま、ただ時間が過ぎていくというケースも出てきます。そこで国土交通省は、最初から必要な額を計画期間で按分して毎月の積立額を決める均等方式を推奨しています。

支払い額が少々高いとしても、将来のために必要なお金だと割り切って初めから先送りせずきっちりと支払っていく方が、後々の大きなトラブルを防ぐことができるのかもしれません。


まとめ

以上、大規模修繕工事の費用と期間、そして工事を実施する際に注意しなければならない数々の点について述べてきました。購入したマンションに長く住み続けるには大規模修繕工事は必要不可欠です。住民として、このことを正しく認識しておきましょう。

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